「この人は器が大きいな」
そう感じたのは、20代前半のある日の休日でした。
誰に感じたのかというと、実は9歳年上の彼女でした。
私は彼女とデートの約束をしていました。
約束の時間、私は事情があって遅刻をしてしまいました。
遅れたのは10分ほどでした。
本来デートでは、約束の時間前に到着するのがマナーです。
大事な人と一刻も早く会いたい気持ちがありますから、待たせるなんてできません。
にもかかわらず10分も待たせてしまう。
もちろん遅刻をするのがよくないのはわかっています。
よくわかっているだけに「やってしまった」と思いました。
「遅刻が原因で喧嘩して別れることになるのでは……」
そういうときに限って、縁起の悪いことを考えます。
「遅刻はいけないよ」と言っている本人が遅刻をすることほど、恥ずかしいことはありません。
身支度を済ませて、急いで約束の場所へ向かいました。
朝食のパンを口にくわえながら家を飛び出すサラリーマンのような感じです。
急いで約束の場所へ向かっていると、彼女からメールが来ました。
当然、お怒りのメールだろうと思っていただけに、度肝を抜かれました。
「今どこにいるの。早く会いたいよ」
優しいメールでした。
無性に心苦しかった。
それは彼女からの「遅刻はするな」という警告です。
本当は「遅刻するなんて許せない!」と言いたかったのでしょう。
怒りをぐっとこらえているのがよくわかります。
「遅刻するな」を「早く会いたい」という言葉で言い換えています。
泣きそうでした。
これが彼女の器の大きさです。
いらいらした気持ちに任せて「いらいらメール」を送るのではありません。
それは普通です。
いらいらをぶつけると、喧嘩になります。
器の大きい人は、いらいらしてぶつけても喧嘩になるだけだとわかっています。
いらいらの気持ちを、できるだけ別の表現に言い換えるのが上手です。
たかがデートの待ち合わせとはいえ、その人の素顔が見える瞬間でした。
「すごいなあ。私もこういうところを学ばなければいけないなあ」
年上の器の大きさにしびれた一件でした。