私が衝撃を受けた先生がいます。
中学3年生の担任だった岡田先生という男性教師です。
教科は理科を担当されていて、色白の温厚な先生でした。
いつもにこにこしていて、授業は明るさにあふれていました。
学生時代、先生の中にはやけに女子にモテる先生がいますが、まさにそのタイプです。
岡田先生はなぜか女子学生にモテていて、羨ましく思いました。
年齢は40代ですが、先生が醸し出す独自の明るい雰囲気が人を寄せ付けていました。
先生の特徴は、生徒を叱るときに現れます。
最初の注意は「優しさ」です。
初めは、笑顔になって「こら。そういうことしたらダメでしょう」と柔らかい言い方で注意します。
怖い顔で注意されると緊張しますが、笑顔で優しく注意されるので受け入れやすいです。
先生は、注意されたときの生徒の精神的ダメージを考えて、笑顔で注意してくれました。
その気遣いは、中学生でも感じ取れます。
たいていはそれでほとんどの生徒が注意を受け入れます。
しかし、思春期の学生です。
いつもにこにこしている岡田先生を生ぬるいと感じ、なめる生徒がいます。
笑顔になって何度も注意をして、それでも言うことを聞かないとき、岡田先生は急変します。
2つ目の叱り方は「怒り」です。
今でも忘れない、ある日の理科の授業でした。
授業中「こら」と何度笑顔で注意しても言うことを聞かない生徒が、1人いました。
完全に岡田先生をなめている生徒でした。
すると、いきなり先生がその生徒の机をひっくり返して、怒鳴り散らしたことがありました。
「もう帰っていい。授業を受けなくていい。もう学校にも来なくていい!」
いつもは優しい言葉を使う先生が、いきなりどきつい言葉で叱り始めます。
もちろん生徒は驚きです。
いつもは穏やかな先生ほど、怒ると怖いとはまさにそのことです。
さすがに偉そうにしていた生徒も驚いて、言うことを聞くようになりました。
叱っているとはいえ、自制心を失っている様子ではありませんでした。
自制心を失うと、殴ったり蹴ったりする場合がありますが、先生はそういうことはしません。
厳しい言葉で叱ります。
驚いたのはそれからです。
しばらく叱った後「では、授業の続きをします」と言って、普段の温厚な岡田先生に戻ります。
怒るときも急変しましたが、元に戻るときも一瞬です。
そのとき直感しました。
先生は、生徒に応じて、2種類の叱り方を使い分けているのだとわかりました。
初めは「優しさ」で注意し、それでも言うことを聞かない生徒は「怒り」で注意するという教育方法です。
たいてい普通の先生は、いつも優しいか、いつも怖いかのどちらかです。
しかし、岡田先生には両方があり「普段は優しいけど、怒ったら怖い」という先生でした。
笑顔になるのも、怒るのもどちらも、コントロールできていました。
そういうとき、先生の器を感じました。
この岡田先生の「優しさ」と「怒り」の叱り方によって、クラスはいつも平和でした。
ほかの先生以上に深く印象に残っているのは、優しさと怒りの両方があった先生だからです。