最後にお話ししたいのは、少々ショッキングな内容です。
「しつけ」というテーマですから、本当は最初に話をしようかと思いましたが、あえて最後に持ってきました。
しつけをしすぎる弊害についてです。
私がアメリカ留学をしていたときのことです。
Mさんという20代後半の男性と知り合う機会がありました。
一緒に食事に行ったり、ドライブへ連れて行ってもらったりして、だんだん親しく話をするようになりました。
最初は普通の男性という印象でしたが、しばらくすると、少し変なところが目につくようになりました。
一緒に歩いていると、Mさんの行動が少し変です。
買い物に一緒に行って駐車場で車を止めた後、鍵をかけ忘れていない車がないか、ドアをチェックしています。
明らかに怪しい。
部屋を物色しようとする泥棒のようです。
「ドアが開いていたら、何か盗んでやろうと思って」
信じられないことを口にします。
そういう態度にしろ、話の内容にしろ、彼の人柄があまりよくないと感じ始めてきました。
またある日「日本でどんな仕事していたの」と聞くと「密輸入をしていた。1回40万円くらいだったかな」と言います。
彼の親はどんな人なのか興味が湧き、Mさんに尋ねてみました。
おそらく親からの教育が悪かったのだろうと、それらしい返事を予想していましたが、完全に期待を裏切られました。
「学校の校長先生をやっている」といいます。
「ええ? なぜ? 何があったの?」
驚いた勢いから、続けて質問を飛ばしました。
校長先生ともなれば、むしろ品行方正の整った人に育てられるような気がします。
「親からのしつけがあまりに厳しくて絶えられなかった。体罰もたくさん受けた。それである日、爆発したんだ」
親が厳しい教育者であったがゆえに、逆に子どもは非行へと走ってしまいました。
実は、こうしたケースは彼だけではありませんでした。
留学と言えば、育ちのいいお金持ちが行くという華やかなイメージがありますが、一概にそうとも限らない。
あまり詳しくは書けませんが、彼に近いケースを数多く目にしてきました。
親からの教育が厳しくて日本から逃げるように海外へきた人は、多くいました。
親からのしつけが弱くて、非行に走る子は少ないです。
親からしつけが少なくても、それなりに子どもは育ちます。
身近にいる友人や先生などを参考にして、自分なりに学んで成長していきます。
むしろ、逆の場合のほうが多い。
親からのしつけが厳しすぎてストレスがたまり、ある日、爆発させるかのように非行に走ってしまうというパターンです。
ある日を境に、完全に親の言うことを聞かなくなり、非行に走ってしまうようになる。
特に、しつけが厳しすぎたり、体罰などをする親に育てられたりした子は、そういう傾向が強いです。
政治家の息子が非行に走ったり、大物芸能人の息子が大麻で逮捕されたりなどは、そういうたぐいです。
親から、がちがちの型にはめられた生活が窮屈になり、ある日不満を爆発させます。
これが難しいところです。
完全に甘えさせるのもよくありません。
常識や作法も礼儀もなくて社会性を欠いてしまえば、大人になったとき苦労することでしょう。
では、しつけが厳しければいいのかというとそうでもありません。
「厳しすぎるしつけ」の中でも、特に「体罰」はいけません。
大切なことは「しつけをしつつも、厳しすぎないこと」です。
ある程度は許容しながら、ゆっくりのんびりしつけるという微調整が、しつけに最も苦労するところなのです。