「犬は飼い主には死に際を見せない」
そんな言い伝えを聞いたことがありませんか。
私が飼っていた愛犬が、死の直前、突然いなくなったことがあります。
探しましたが見つからず、最後の別れとなりました。
私のように、犬の死に目に立ち会えないという飼い主は、多くいるのではないでしょうか。
長年一緒に暮らしているなら、せめて最後の最後まで一緒に暮らしたいものです。
大した墓は作ってやれないかもしれませんが、せめてお墓を作って、これまでの感謝を捧げたい。
それが飼い主の本音でしょう。
しかし、ある日、犬が自分でリードを噛みちぎって家出をしてしまうことがあります。
そのうち帰ってくるのかと思えば、最後。
こうした不思議な別れを経験する飼い主もいるはずです。
これは犬に限らず、猫にも見られる習性です。
以前私は、祖父から「飼い主を悲しませないため」と教わったことがあります。
そういうものかと納得していた時期もありますが、調べてみたところ、本当の理由は少し異なるようです。
大けがを負うと動きが鈍くなり、外敵から襲われやすくなります。
野生のころ、草木の奥深くに身を潜めて誰にも見つからない場所で、体力を回復するまで隠れていたようです。
しばらく経てば、自然治癒の力で傷口がふさがり、体力が回復します。
また姿を現します。
この名残が、現在の犬や猫にも残っていると言われます。
しかし、何でも待っていれば回復するわけではなく、回復しないこともあります。
「老化」です。
老化は休めば治るというものではありません。
低下の一途をたどるばかりです。
しかも動かなくなると、余計に筋力が衰える。
筋力が衰えるから、余計に体を弱めてしまうという悪循環です。
老化を迎え、いよいよ死が近づいたと悟った犬は、野生の名残からリードを噛みちぎり、飼い主のもとを離れようとします。
誰もいないところで、体力が回復するのを待とうとする。
どこに隠れているのかはわかりませんが、森の奥かもしれませんし、草木の間かもしれません、どこかの隙間かもしれません。
しかし、そのまま体力は回復できず、ついに死を迎え、誰にも気づかれないまま白骨化し、土に帰ってしまう。
仮説の域ではありますが、これが現在、最も有力とされています。
犬の不思議な行動には、こうした生き延びようとする野生の知恵が考えられます。
しかし、最近は事情も変わってきているようです。
室内で飼っている犬が増えたため、犬の死に目に立ち会うことができる飼い主も多くなりました。
もし犬の死を迎えることができれば、悲しいことではありますが、幸せなことなのかもしれません。
飼い主は、これまで恩に報いる気持ちで、きちんとお墓を作ってあげるようにしましょう。