私が以前、勤めていた職場に変わった上司がいました。
優しくて、面倒見のよい上司でしたが、ちょっと癖が強かった。
その上司には「要は」という口癖があったのです。
この言葉は通常、話をまとめるときに使う言葉です。
言いたいことを一言で表現するときに「要は」という言葉を使います。
しかし、その上司は、何度も繰り返し、口にします。
しかも「要は」と言っているにもかかわらず、話はまとまっていません。
「要はここをこうすればよくて、つまりだな、要は、まとまらないときには仲間に手伝ってもらう方法でもいいし、実際にやってみると、要はなかなかうまくまとまらないことがすぐわかるんだ。要は、君の力だけではうまくやっていくことはできないし、職場のチームワークでは要は協力が大切ということ。要は……(話はまだ続く)」
私はいつも、笑いをこらえるのに必死だった。
「要は」と何度も言っていても、話の要点は曖昧です。
本人は、それに気づいていない様子です。
上司ですから、なかなか言い返せません。
わからないから質問したにもかかわらず、いつまでもまとまらない話を聞いて、余計に混乱する私がいました。
言いたいことを懸命に伝えているようでしたが「要は」と言ってまとめようとすればするほど、話がこじれていました。
どうやら、こうしたタイプの人は「話をまとめようとするためには『要は』と何度も言えばいいのだ」と思っているようです。
「要は」を会話の中に入れれば、大切な部分が強調され、相手にわかりやすくなると思っています。
話は長く、いつまでもまとまらないのです。
あなたは、話をまとめたいとき、どうしていますか。
「要は」「つまり」「だから」を何度も口にしていませんか。
本当にわかりやすくまとまっている話というのは、常に「一言」です。
日本の野球界では有名な長嶋茂雄さんの説明は、いつも一言です。
「どうすればホームランを打てますか」と質問をすれば「ここをね、こう握って、パーンと振ればいいんですよ」と一言です。
「たったそれだけ?」と驚いてしまいます。
説明ができないから、一言なのではありません。
完全に体に染み付いているから、一言で表現できるのです。
本当に理解している人は、言葉を短くできます。
「要約」は、常に短い文章です。
要約ができる人は、長い文章全体を完全に理解していないとできないことです。
完全に理解できれば、大切なところだけ抜き出せます。