昔々あるところに「一度でいいから海を見たい」と願う年配男性がいました。
世界には少なからず海のない国があります。
その人は生まれたときからずっと内陸に住んでいて、一度も国境を越えたことがなく、海を見たことがありませんでした。
海外旅行に行くことはなく、生まれた土地から離れることもなく、地元で毎日慎ましく暮らしていました。
あるとき孫たちが祖父の願いを叶えようと思い立ちました。
祖父の誕生日プレゼントとして「海を見る機会」を企画したのです。
飛行機は怖くて苦手ということだったので、バスを貸し切って陸路で海に向かいました。
孫たちの優しいプレゼントのおかげで、その年配男性はついに念願の夢が叶いました。
初めて見る海に大興奮です。
「これが『海』というものか。 なんて壮大なのだろう! 本当に素晴らしい!」
満面の笑みを浮かべ、はしゃぎました。
高齢であっても、心はすっかり子どもに戻っています。
写真で見たことがあっても、やはり実際に見ると迫力が違います。
海に向かって両手を合わせて拝みました。
驚いてぼろぼろ感動の涙を流しているのです。
私たちにとって見慣れた海も、初めて見る人にとっては絶景です。
あなたも幼いころ、初めて海を見た瞬間があったことでしょう。
そのときはきっと大興奮をして、思いきりはしゃいだに違いありません。
見慣れている景色だからといって、感動できないと考えるのは早合点です。
見慣れた海であっても、初めて見るつもりになってみてください。
記憶をリセットして白紙に戻します。
初めて海を見るつもりになれば、きちんと感動できます。
見慣れた景色であっても、初めて見るつもりになれば楽しめます。
あの年配者のように、ぐっと感情がこみ上げ、深い感動が生まれるのです。