年を取ってくると、親のしていた不可思議な行動が理解できるようになってくるときがあります。
大人の行動ですから、意味のない行動はありません。
ただ子どものころは、理解が浅いため、大人の行動がなかなか理解できないものです。
しかし、自分も成長して大人になると、当時は理解できなかった親の行動が理解できるようになります。
そのエピソードの1つに、母の口癖がありました。
私の母には「水口家は貧乏。お金なんてない」と、よく口にする口癖がありました。
口癖というより、これでもかというくらいに、強調するのです。
子どものころは「そうなんだ」というくらいにしか思っていませんでした。
私がだんだん成長してくると、水口家の事情もわかるようになります。
「思ったより土地もお金もあるし、なぜそこまで貧乏と強調するのかな」と思うようになっていました。
子どもだった私には、自分の家が貧乏だと強調する母の気持ちが、まだ理解できないでいました。
のちに、私は社会人になり東京で一人暮らしを始め、自分で稼ぎ、生活するようになりました。
すると、いつの間にか、私も「貧乏なんです」という言葉が口癖になっていました。
「おや。母と同じ言葉が口癖になっている」
自分で驚いたものです。
いつの間にか私も母と同じように、自分のことを反射的に貧乏と強調するようになっていました。
自分がそうするようになったとき、なぜ母が貧乏だと強調しているのかが、ようやく理解できたのです。
お金による、しがらみやトラブルから、避けるためだったのです。
自分にはお金がないことをあらかじめ宣言しておくと、周りの人から借金をお願いされることがなくなります。
貧乏だと思われれば、無理やりファッションに気を使う必要もなく、お金がかかりません。
地味な格好をしていても、貧乏だからという理由から、それでちょうどよくなります。
もしかっこつけて「私の家はお金がある。お金持ち」なんていっているとどうなると思いますか。
お金持ちらしく身なりを整え、体裁を整えなければならなくなり、お金が必要です。
また「お金があるなら貸してくれよ」と、周りからせびられるようになるでしょう。
お金に関わるしがらみが増え、悩みも増えます。
貧乏人だといっておけば「貧乏人には用はない」と思われ、つまらない出来事をあらかじめ避けることができるようになります。
「貧乏」とそうでなくても宣言しておくことで、お守りのような役目を果たしてくれるのです。