一度痛い勧誘に引っかかると、その反動で次からは極端に強くなります。
「同じ経験は、二度経験したくない」という意識が、強く働くようになるからです。
私は今、勧誘にとても強い自信があります。
強引な勧誘でさえ、はねのける自信があります。
一度ひどい経験をしたことがあり、おかげで勧誘には厳しくなっているからです。
これには痛くて苦い思い出があります。
本当は思い出したくもありませんが、ちょっとお話しします。
上京してまだ間もないころ、一人暮らしをしていた私の部屋のチャイムが鳴りました。
夜の7時ごろです。
「なんだろう」と思って、気軽にドアを開けたことがまずかった。
今思えば、これがすべての始まりでした。
そこには1人の若いお兄さんが立って、こういうことを話し始めました。
「浄水の調査です。この地区の水は汚れている報告があり、区から浄水器の提案があって訪問しました」
田舎から出てきた私は、たしかに東京の水は汚いという実感はすでにありました。
東京の水は、飲んですぐ「塩素が混ざっているな」と味でわかってしまうほどであり、肌もかさかさに荒れていました。
そのせいもあって、彼の言葉をそのまま信じてしまいました。
それも「この地区の水は大変汚れている」という言葉にぴんと反応してしまい、つい、彼を部屋の中に入れてしまいました。
最も情けない私の失敗の1つです。
当然、ここから彼の営業トークが始まったのです。
情けない話です。
当然のごとく、水が汚れているという話から始まり、いつの間にか浄水器の販売の話になっていました。
「月々4,000円程度で、ご利用いただけます」と言われ「それくらいなら、まあいいか」と思いました。
しかし、実際は月々4,000円支払いのローンだったのです。
計40万という数字を見てもぴんと来なくて、彼がうまく月々4,000円を強調したため、そのことばかりが頭を回っていました。
プロの営業は、話し方や話の乗せ方といい、自然でうまい。
あとあとこのときの経験から、プロの話術には気をつけるようになりました。
ほかの人も、話に乗せられるのではないかと思います。
気づけば、たった1つの浄水器だけのために、8年間もの長いローン地獄に陥るありさまになっていたのです。
契約を交わした後、後日これはまずいと気づいた私は、いろいろ調べてクーリングオフ制度というものを利用しようとしました。
これがまた運が悪いことに、当時ちょうどゴールデンウィーク中で私は実家に帰っており、手元に契約書がありません。
詳細を伝えるためには、契約書を見る必要があるのですが、契約書は東京のアパートにおいてきたまま。
しかし、私は実家に帰っている。
そのうえ、クーリングオフを手続きしている機関もゴールデンウィークでお休みでした。
そんなタイミングの悪さがちょうど重なり、クーリングオフが有効である8日間を過ぎてしまったのです。
この痛い思い出は、今思い出しても、悔しくて泣きそうになります。
それからです。
私は極端に勧誘には冷たくなり、どれもこれもとにかく完全にはねのけるようになりました。
ささいな勧誘でさえも、目も合わせず話も一切聞きません。
勧誘で話しかけられるたびに「あのときの出来事」を思い出し、怒りがよみがえってくるからです。
金銭的にも精神的にも大きな痛みを一度経験すれば、それをバネにして、その後がらりと変わるということがあります。
「後悔しても終わったことは仕方ない。授業料だと思おう」
そう考えるようにして、今はそのときの経験を生かす形にしています。
勧誘で、一度ひどい経験をするのも悪くはありません。
本からの知識ではなく、貴重な体験を通してその痛みを知ると、大きな勉強になるのです。