フォービズムの代表的画家アンリ・マティスは、生涯を芸術に捧げました。
フォービズムは、それまでにない、新しい絵画の描き方です。
単純化された構図と豊かな色彩を特色としていて、現代美術に大きな影響を与えたことで知られています。
色の可能性を存分に引き出すことに成功したマティスは「色彩の魔術師」とも言われています。
1941年、マティスは72歳のとき、重度の十二指腸がんを患い、長時間の外科手術を受けます。
余命いくばくもないと宣言されながら奇跡的に回復を果たしたもののの、外出もままならなくなります。
その後2年にわたって寝たきりとなり、1日の大半をベッドで過ごす生活となりました。
手術の影響と体力の衰えから、絵筆を十分振るえなくなり、油彩画の制作は限界を感じる状態となりました。
マティスがすごいのはここからです。
油彩画を描けないほど体力を失えば、普通は芸術を諦めます。
「もうダメだ」「できないものは仕方ない」となります。
しかしマティスは創作活動を諦めませんでした。
「体力がなくて油彩画ができないなら、体力がなくてもできる芸術制作をすればいい」と発想の転換をします。
そこでマティスは、あまり体力を必要としない「切り紙絵」という制作手法にチャレンジしたのです。
切り紙絵は、一からのスタートです。
今まで描いていた油彩画とはまったくジャンルが異なり、完全な初心者です。
ベッドであおむけになりながら、はさみを手に取り、紙を切り、介護を受けつつ制作に取り組みました。
フォービズムの特徴である単純化された構図と豊かな色彩を、切り紙絵でうまく表現しました。
そうしてマティスは、油彩画だけでなく、切り紙絵でも素晴らしい作品を残しました。
切り紙絵の作品『ブルーヌード』『王の悲しみ』は、晩年のマティスが制作した傑作として知られています。
高齢のマティスが、限られた体力を振り絞り、ベッドで寝たきりのまま制作した作品というのですから、驚かずにはいられません。
マティスの切り紙絵が素晴らしいのはもちろんですが、彼の諦めないチャレンジ精神にも感服します。
高齢と健康問題が重なった状態でありながらも、新しい表現にチャレンジしたことは、大変注目に値するのです。
私たちは、マティスの諦めないチャレンジ精神から学ぶところがあります。
「もう歳だから」「もう体力がないから」という声が聞かれます。
マティスに言わせれば「まだまだ」というレベルでしょう。
中年はもちろん、高齢であっても、新しいチャレンジは可能です。
たとえ健康問題に直面していたとしても、本人に熱い情熱があれば、不可能ではありません。
どれだけ年齢を重ねようと、どれだけ体力が衰えようと、本気になれば、新しいチャレンジができるのです。