父は仕事の関係で、さまざまな部品を家に持ち帰りました。
最初に興味を持ったのは「磁石」でした。
見た目は単なる石です。
しかし、なぜか引き付け合ったり、反発し合ったりする見えない力があります。
「なんだろう。目に見えないけど、強い力を感じる」
感動して、好奇心を刺激されたことを覚えています。
「へえ、面白いなあ」と思い、さらに追求が始まりました。
次に興味を持ったのは「モーター」でした。
電気が流れることで磁力が発生し、それを利用して、回転する力へと応用していました。
「すごい、すごい!」と騒いだことを覚えています。
見えない力が、回転する力へと応用されています。
モーターに夢中の小学生になっていました。
父がなぜ仕事に夢中になっているのかが、次第にわかり始めました。
父は機械関係の仕事をしていたせいで、ほかにもさまざまな部品を持ち帰りました。
音が発せられるスピーカー。
電気を蓄積するコンデンサー。
回路に電気抵抗を与えるための抵抗器。
プログラムを蓄積する集積回路。
それら単体では役立ちません。
しかし、芸術のような組み合わせにより、素晴らしい働きをする1つの製品ができ上がっていることを知ります。
父は、そうした部品を組み合わせて、製品を作る仕事に携わっていました。
見方を変えれば、芸術家です。
すごいなあと思い、尊敬でした。
そんなある日、衝撃の事実を知ります。
テレビやラジオも、そうした精密部品から成り立っていることを知ってしまいました。
笑えるような話ですが、妙に衝撃的でした。
まだ幼い私は、テレビやラジオの中には、てっきり人がいるものだと思っていました。
小さい人がいて、スイッチを入れると話し始めるのだろうと思っていた。
あらためて考えると、あり得ない事実だとすぐわかりますが、子どもはそういうものです。
トナカイに引っ張られたソリに乗ったサンタクロースが、空を飛んでやってくるのも、無条件に信じ込んでいた時期があります。
本当かどうか確かめようと、私は手当たり次第にテレビやラジオを分解しました。
たしかに中に人は入っていなかった。
あるのは、父が持ち帰る、あの精密部品の固まりだけでした。
テレビやラジオは、精密部品の芸術的な組み合わせによって実現されている家電製品だと、初めて知ります。
頭をがんと殴られたような衝撃だったのです。