あるところに、盲目の女性がいました。
先天的な視神経の障害があり、生まれてから一度も見ることを経験したことがありませんでした。
真っ暗な世界の中で、触覚や聴覚だけを頼りに毎日を生きていました。
「見ることができればどれだけ幸せだろう……」
そう思いつつも「そんな夢が叶うわけない」と諦めていました。
あるとき、とあるメーカーが、医療の最先端を結集した視力障害者用のメガネを開発しました。
カメラから見える映像を視覚刺激に変換して、脳に送る装置です。
この装置を使えば、弱い視力ではありますが「見る」という行為が可能になります。
最初その女性は、半信半疑でした。
生まれてから一度も、見ることを経験したことがなく「できるわけがない」と思っていました。
その装置を装着して、スイッチを入れた瞬間、世界が一変しました。
初めて風景を見ました。
初めて自分の顔を見ました。
初めて自分の母を見ました。
ただ見えるだけで、あまりに嬉しく、泣いて感動したのです。
「見える! 素晴らしい! ありがとうございます!」
感謝と感動の言葉を何度も口にして、ぼろぼろ大粒の涙を流しました。
私たちは今、普通に見ることができています。
人を見たり、文章を読んだり、街の風景を眺めたりしているでしょう。
盲目の人にとっては見る行為は「夢」と呼ぶほど感動的なことです。
あなたが見ているその光景は、盲目の人にとっては、泣くほど感動的な光景です。
感動するために、感動的な光景は必要ありません。
ただ見えるだけでいいのです。
空間を認識できる。
色や形を識別できる。
動きや遠近感まで把握できる。
何を見ようと、それは素晴らしい光景です。
ただ見えることに感謝するのです。
見えるだけで素晴らしいこと。
見えることに感謝して、見ることを楽しみましょう。
視覚は、基本的な五感の1つですが、世の中には、それが叶えられない人もいます。
見ることができるだけで、十分幸せなことなのです。