私が小学生だったある日のこと、祖父に「めんこ」を教えてもらったことがあります。
めんこという遊びは、1980年代、すでに大変古臭い遊びで、私は経験したことがありませんでした。
「知らない」と答える私に「じゃあ、教えてやろう」と祖父がめんこを作って、遊び方を教えてくれました。
めんことは、日本独自の遊びです。
昔の遊びだけあり、めんこの作り方や遊び方は、シンプルです。
円形、または長方形の分厚い紙を作ります。
その厚紙でできたものが、めんこです。
2人以上が、互いに自分のものを地面に叩きつけ合います。
その地面に打ちつけたときの風の力で相手のめんこを裏返して、勝負を競います。
少し凝っためんこになると、絵柄模様や写真をはり付けることもあったそうです。
めんこを作った祖父が、手本にどうやるのか見せてくれました。
私は驚きました。
いつもは腰を曲げて鈍い動きばかりの祖父が、慣れた手つきで急に俊敏になります。
急に若返ります。
その瞬間だけ、祖父は子ども時代に戻っていました。
祖父はめんこをしているうちに、昔の自分を思い出していたのかもしれません。
懐かしい気持ちがこみ上げたり、昔の遊んでいた風景を思い出したりしていたのでしょう。
にやにや笑いながら、楽しそうにします。
その瞬間、祖父が昔どれだけめんこで遊んでいたのかが伝わってきました。
祖父の慣れた手つきや嬉しそうな表情を見て「毎日、こればかりして遊んでいた」ということが、ひしひし伝わってきます。
昔の遊びを教えるのは、これだけでも意味があります。
しかも、祖父はうまかった。
強く地面にめんこを叩きつければ、強い風を起こすことができますが、ただ力任せに地面に叩きつければいいわけではありません。
相手のめんこを裏返すことができるよう、角度や場所などを計算に入れる必要がある頭脳ゲームでもあります。
私のほうが若いので、力任せにめんこを地面に叩きつけますが、なかなかうまくできません。
しかし、祖父は一発で私のめんこをひっくり返してしまいます。
子ども時代に何度もやって、体が動きを覚えているのでしょう。
昔の遊びなら、年配者ほど強くなれるのです。