一昔前「卵でその店がわかる」と言われていた時期がありました。
昔、卵は店が独自で作っていました。
また、卵は頻繁に作るネタでもあります。
通は、最も頻繁に作る卵の具合を見ることで、職人の腕の善しあしを見ようとしていたのです。
しかし、現在、この法則は通じなくなりつつあります。
卵はデパートで買ってきているものが多く、また見習いやアルバイトが作っていることも多いからです。
では、通はどの点で店の善しあしを確かめるのか。
今は「トロでその店がわかる」と言われ始めました。
「トロは赤字商売」と言われます。
トロは値段が高いので、儲かりやすいのではないかと思いますが、そうとは言い切れません。
原価率が高い一方、高級な印象があるため注文する人も少なく、採算が取りにくいのです。
元が取れればいいほうです。
赤字のほうが圧倒的に多いのが一般的です。
赤字になるならトロを置かなければいいと思いますが、寿司屋の看板を掲げている建前上、トロを出さないわけにはいきません。
どの寿司屋も避けたがるトロ。
しかし、メニューには並べなければいけないトロ。
事実、トロの品質は、寿司屋によって差が大きいのが特徴です。
店の経営が苦しければ、品質の低い物を選びますが、高級店は赤字を覚悟で最高級のトロを出します。
通は、トロを食べます。
赤字になりがちなトロに、どれだけ力を入れているか。
このことで、その店の意気込みを見ようとするのです。
上等のトロを使っていれば、赤字覚悟のうえ、お客さんに満足してもらいたい意気込みが伝わってくるのです。
トロの赤身は、情熱の赤なのです。