アメリカに留学をしていた学生時代、友人の1人に、玉恵ちゃんという日本人女性がいました。
学校の休み時間に、私は図書館前の芝生の上で日光浴をしていました。
たまたま近くを通りかかった玉恵ちゃんが、慌てた様子で話しかけてきました。
「貴博君、助けて! アメリカ人に付きまとわれて困っているの。今だけ付き合っているふりをして」
どうやら、アメリカ人からの積極的な恋のアプローチに困っている様子でした。
玉恵ちゃんは、アメリカ人に受けそうなにこにこした表情がかわいい女の子でした。
困っていると言われると、助けるしかありません。
仕方なくしばらくの間、芝生の上で付き合っているような雰囲気を出していました。
わざと肩を寄せ合って、いちゃいちゃしているような雰囲気を出していました。
たまたま芝生というシチュエーションもよかったのです。
しばらくすると、玉恵ちゃんにしつこいアプローチをするというアメリカ人がやってきました。
しかし、2人の雰囲気から、私のことを彼氏と思い込んだらしく、しばらくして諦めたような様子で去っていきました。
「ありがとう。助かった」
玉恵ちゃんがほっとした表情で、感謝してくれました。
しかし、その後思いもしなかった展開がありました。
私と玉恵ちゃんとの仲が、以前より仲良くなってしまったのです。
その後、私のアパートに遊びに来るようになったり、頻繁に電話をするようになったりもしました。
意外な展開に、私も驚きでした。
テレビドラマの共演がきっかけで知り会い、恋に落ちて、結婚をした話をよく耳にします。
その気持ちがよくわかりました。
テレビドラマでは夫婦役を演じたり、恋人役を演じたりします。
たとえそれが役であり演技でも、やはり錯覚を起こします。
相手と急接近をするので、自然と親密になってしまうのです。
私の場合も、一度恋人という役を演じたため、お互いに意識をするようになってしまいました。
その後、玉恵ちゃんに告白をするとOKをもらったものの、あと一歩で恋愛成就には至りませんでした。
玉恵ちゃんは、ボストンの大学に進学することが決まって、はるか遠くへ引っ越してしまったためです。
22歳の淡い思い出でした。